カーライル 日本特化ファンドを2020年3月設立して1000億規模の大型案件に参入を表明したPEファンド

2020年3月、米カーライルグループが2580億円の日本特化ファンドを設立しました。カーライルは新型コロナウィルス禍で日本の大企業のカーブアウト案件が増加すると見込んでおり、これまでターゲットとしていた中堅企業案件だけでなく大型案件にもアジアや米国のファンドの資金も活用し、人員も強化し対応していくとの報道がありました。

米国ワシントンDCを拠点とするカーライルグループの日本法人は2000年に設立され、これまで26件の投資を日本で行ってきた投資ファンドです。今後の動きが注目されるこのファンドについて会社概要、投資実績などをまとめて解説します!

 1. 会社概要
 2. メンバー構成
 3. 投資方針
 4. 投資実績
 5. 過去の投資案件
 6. 投資を受けるために

 

1.会社概要 重要ポイント!米ワシントン拠点の投資ファンド 日本法人は2000年に設立

カーライル(The Carlyle Group)は1987年に設立された米国ワシントンDCを拠点とする投資ファンドです。事業内容プライベートエクイティ、リアルエステート、グローバルクレジット、インベストメントソリューションズのは4つを柱としていますが、運用資産の内37パーセントをプライベートエクイティへ投資しており最も注力している事業となっています。日本オフィスは2000年に設立され、日本国内で20年の投資実績がある日本のPE界でも最も古いファンドの1つです

<カーライル グループ>

商号 The Carlyle Group
所在地 WASHINGTON DC
Headquarters
1001 Pennsylvania Avenue NW
Washington, DC 20004-2505
United States
各国拠点 ワシントンD.C.(他米国内複数拠点)、東京、シンガポール、シドニー、北京、上海、香港、ソウル、サンパウロ、パリ、ムンバイ、ミュンヘン、ミラノ、ルクセンブルク、ロンドン、リマ、ラゴス、ヨハネスブルグ、ジャカルタ、ドバイ、アムステルダム、ダブリン、バルセロナ
事業内容 1. コーポレート・プライベート・エクイティ

2. グローバル・クレジット

3.リアルアセット

4.インベストメント・ソリューションズ

創業 1987年
その他 NASDAQ上場(CG)

 

 

<カーライル ジャパン>

商号 カーライル ジャパン
 

所在地

東京都千代田区丸の内1-5-1 新丸の内ビルディング35F
事業内容 プライベートエクイティ、リアルアセット
創業 2000年

※その他の会社概要についてはファンド詳細情報をご確認ください。

2.メンバー構成 重要ポイント!東京拠点のメンバーは日本人のみで構成

東京オフィスの代表は山田和弘氏、2020年1月に就任した副代表は富岡隆臣氏と大塚博行氏です。代表の3名は下記の経歴のように銀行や投資銀行のバックグラウンドを持っています。

山田和弘氏は住友銀行(現三井住友銀行)は海外支店や大和SBCM(現大和証券)において、ストラクチャードファイナンス及びM&Aアドバイザリー業務等の投資銀行業務に従事後、クロスボーダーM&Aアドバイザリー業務担当し、多くのクロスボーダー案件を成約した人物。その後カーライルに参画し、現在は投資案件全般に関するアドバイザリーを担当しています。

 

富岡隆臣氏は日本長期信用銀行にてシンジゲートローンのアレンジ業務や企業金融業務に従事していました。その後GE Capital Japanに移籍し、GE Equity Japanの立ち上げに参画し日本代表として、主にGEとの事業シナジーを追求した投資を実行し、4社を上場させています。現在はヘルスケア及びコンシューマー業界を担当しています。

 

大塚博行氏は住友銀行(現三井住友銀行)にてM&Aアドバイザリー業務に従事後、 その間、投資銀行ラザードとM&Aにおける業務提携の実行/推進役を務め複数の協働案件を担当していました。2001年にカーライル・グループに移籍し日本のバイアウトチームにて産業界を担当し、再度2002年にラザードに移籍して複数のクロスボーダー/国内M&A案件を担当し、再度カーライルに復帰した人物です。現在はジェネラル・インデダストリ―を担当しています。


2020年に副代表に2名が就任し体制を強化しましたが、さらに6月1日付で、財務省、メルリリンチ証券を経てカーライルで活躍後マレリ(旧カルソニックカンセイ)の常務執行役員を務めていた寺坂令司氏がマネージングディレクターとしてカーライルに復帰しました。日本拠点の強化としてさらにほかの人員も強化する方針と言われています

銀行、証券会社の出身の方が比較的多いと言えますが、金融関係のバックグラウンド以外でも戦略コンサルや商社の出身、弁護士などのメンバーで構成されています。またシニアアドバイザーとしてベネッセホールディングスの社長を務めた安達保氏やテルモの社長を務めた新宅祐太郎氏など、多くの実績のある経営者の協力が得られる体制が構築されているのが特徴です

カーライルは内部のメンバーが担当の業界をもつインダストリー制を採用しています。PEファンドが企業価値向上を図る時、金融工学的手法にたよるのではなく企業の売上に変化をもたらすことが特に日本企業文化的には重要であると考えており、そのためにもメンバーが業界に関する深い知見持つような仕組みとなっています。また企業価値向上はあくまで株主としてのサポートであり、経営者としての判断とはまた異なる時間軸をもつ場面があるとカーライルのメンバーがインタビューで発言しているように、株主として経営者の決断意見を尊重することも必要であるとして、株主、投資ファンドとしての立場と純粋な企業の経営者としての一線を画しているところにも特徴がみられます

3.投資方針 重要ポイント!今後は1000憶円以上の大型案件にも投資予定

米国の投資ファンドであるカーライルですが、グローバルファームでは唯一円建てのバイアウトファンドを運用してきました。まずはこの日本特化ファンド4号ファンドの投資方針を見てみましょう。

投資対象 中堅企業の事業継承を主に対象とすることで他のグローバルファンドとの差別化を行っていましたが、2020年に設立した4号ファンドでは、コングロマリットのカーブアウト案件など大型案件にも資金の半分を投資していく方針です
投資手法 MBO、TOB、マジョリティ投資、マイノリティ投資 等多様な手法に対応
対象業界 1、消費財、小売り、ヘルスケア分野

2、製造業、一般産業

3、テクノロジー、メディア、通信

4号ファンドでは上記3分野に年1~3件投資予定です

投資金額 200憶~400億円での取引をターゲットとしてるが、カーライルグループのアジア、ヨーロッパ、北米ファンドを利用することによって1000億以上の投資にも対応予定です

円建てファンドを20年来運用し、これまで日本の少子高齢化の加速を背景に事業継承案件を中心にこれまで中堅企業の海外進出や価値創造支援を行ってきました。20年の経験に基づく日本の企業への深い知見と、カーライルグループのグローバルなプラットフォームを活用した支援がカーライルの特徴と言えると思います。

新型コロナウィルス禍より日本の大企業は変革を求められており、また日本政府によるコーポレートガバナンス強化の圧力も強く、コングロマリットは主力でない事業のスリム化を強く求められていることを投資の機会として捉え、今後注力していく方針が表明されています。

一方グローバルなカーライルグループはオルタナティブ投資として多くの分野に投資しており、プライベートエクイティ以外にもリアルアセットとして不動産、上下水道、交通、電力などの社会インフラへの投資、北米中心にエネルギー関連への投資、その他の投資も行っています。次にグローバルなカーライルグループの主力プライベートエクイティ分野の投資方針を見てみましょう。

投資手法 バイアウト グロースキャピタル
対象業界 下記6分野が主な対象業界です

1、航空、防衛、ガバメントサービス

2、メディア、消費財、小売り

3、金融サービス

4、ヘルスケア

5、一般産業、交通

6、テクノロジー、ビジネスサービス

投資規模 世界6大陸で、現在800億$181企業に投資を行っています

航空、防衛などへの投資が特徴的ですが2000年頃に比べ投資額額は少なくなってきており、テクノロジー、ヘルスケアなどの分野が増えています。またグローバルなファームですが各拠点の裁量を大きくしていることが協調されています。

 

4.投資実績 重要ポイント!中堅企業の事業継承に多くの実績。コングロマリットのカーブアウトも。

投資実績はカーライルジャパンの20年のプライベートエクイティファンド実績を中心に見てみましょう。カーライルジャパンは20年で3つのバイアウトファンドと共同出資も含めて、合計3000億円以上26件の企業に投資を行ってきました。その内、18件がExit済そのうち7件がIPOを実現しています。

ファンド 投資額 投資先企業
カーライルジャパンパートナーズⅠ 2001年設定 500 億円 株式会社アサヒセキュリティ、クリオカプス 等
カーライルジャパンパートナーズⅡ 2006年設定(GROSS IRR  7%、累積投資額¥ 141,866.7) 1656 億円 シンプレックス、チムニー、AVANSTRATE株式会社、WALBRO、東芝セラミックス 等
カーライルジャパンパートナーズⅢ 2013年設定(2020年3末現在のGROSS IRR 23%、 累積投資額¥ 91,191.7) 1195 億円 株式会社おやつカンパニー、三生医薬株式会社、アルヒ株式会社(旧SBIモーゲージ株式会社)、日立機材株式会社、ウィングアーク1st、ソラスト、オリオンビール株式会社 等
カーライルジャパンパートナーズⅣ 2020年設定 2580憶円

 

他の外資系ファンドはカーブアウトなど大型案件への投資が多くなっていますが、カーライルは日本国内の中堅企業に積極的に投資してきました。また200年前半はカーライルアジアファンドやカーライルアジア不動産投資向けファンドによる日本国内への投資も行われていました。4号ファンドの設立と同時に再度アジアファンドなどの活用も増えてくると思われます。

5.過去の案件概要 重要ポイント!強力なアドバイザーの影響力とカーライルグループのグローバルな支援

カーライルジャパン過去の案件で特にヘルスケア分野についてご紹介します。ヘルスケア分野はカーライルが注力している分野の1つですね。

クリオカプス

2005年、カーライルは、塩野義製薬株式会社の子会社 であるシオノギクオリカプス株式会社、シオノギクオリカプスINC. (米国)、シオノギクオリカプスS.A. (スペイン)、シオノギヨーロッパB.V.の4社(以下、「シオノギクオリカプス・グループ」)の発行済み株式100%をマネジメント・バイアウト (MBO)方式で買収しました。塩野義製薬株式会社は新薬開発をコアビジネスとしていたため、ハードカプセル事業はノンコアビジネスでしたが、シオノギクオリカプス・グループは医薬品・健康食品向けハードカプセル等の製造・販売会社で、日本、 アメリカ、スペインにそれぞれ製造・販売を行う法人を有し、高い技術力とマーケティング力により、日本の医薬品カプセル市場において国内シェア6割で業界 第1位、アメリカと欧州を含めた世界市場において業界第2位という地位を確立していた会社でした。

ただアメリカ工場での生産、販売が不振であったため、カーライルの支援によりアメリカのCEOにアメリカ経営者としてトップクラスの人材に就任してもらい、アメリカ工場の品質管理チームのリーダーシップを変革、結果品質と生産能力が飛躍的に向上しました。またM&Aなどの手法も駆使しカナダのTechnopharなどを買収、米国内の世界的な製薬会社への販売網も確立することができたため米国内のクリオカプスのシェアが8%から25%に向上しました。それまで連結決算さえできていなかった状態から、世界的な販売網の確立、マーケティング戦略強化、グローバルなマネージメントシステム及び経営管理体制を整えました。日本の製薬会社がPEファンドと協力しカーブアウトを行った初めての案件となりました。

ソラスト

ソラスト(旧日本医療事務センター)は日本初の医療事務教育機関として創業し、医療関連受託事業、教育事業、労働者派遣、ホームヘルパー養成、訪問介護ステーション、保育事業などを行う東証第2部上場の企業でした。2012年カーライルによるTOBにより上場を廃止しカーライルによる経営支援が開始されました。内部の経営陣に加え、カーライルの協力でヤンセンファーマ株式会社や第一三共株式会社の元経営者などのプロフェッショナル経営者に経営に加わってもらい、強力な経営組織を作りました。

大胆に教育事業の1つの中心であった通学の教育事業を閉鎖し、社内の人材育成センターにリソースを振り分けた結果、自社にマッチした人材の採用が可能となり採用コスト削減離職率低減に成功しました。またM&Aのノウハウを提供教育により介護分野の急速な拡大も実現、地域内の業績管理体制も強化することにより売上の倍増、収益性向上に貢献しました。その他、新しい事業パートナーとの連携を支援し、大東建託、東邦ホールディングス、インフォコムなどと資本提携、株主構成を安定化、事業展開の強化、ITを利用した生産性や品質の向上、営業力強化を実現し、2016年には東証1部に上場をしました。カーライルは大東建託などとの資本提携とIPOを通じて持ち分は売却しています。

グローバルのカーライルグループが2010年にブラジルの医療事務受託業務のQUALICORPの買収を行っており、この分野のノウハウを持っていたこともこれら2つの案件の成立の背景にあったと考えられます。

6.投資を受けるために

カーライルについては投資対象業種が明確に示されています。またこれらの分野についてカーライルグループが過去に投資した案件のノウハウを活用することも有効だと考えられます。自社の事業との関連性が強い場合は銀行、証券会社、コンサルティングファームなどとのやり取りの中でカーライルの情報を収集していくことで、投資対象としての交渉が可能となるかもしれません。

まとめ

カーライルはグローバルなプラットフォームを活用しながら約20年間日本現地のメンバーがローカルな視点で日本の中堅企業に投資、企業価値向上を行ってきたファンドです。2020年5月4号ファンドが設定され今後投資が本格化されます。今後の動きに注目していきましょう!

 

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